質問：なぜ日本では女性の社会進出が遅れているのか？
日本は先進国でありながら、女性の社会進出において世界的に大きく遅れをとっています。世界経済フォーラムの「ジェンダーギャップ指数2024」では、日本は146カ国中116位という深刻な状況です。この複雑な社会問題について、異なる時代・文化から3人のレジェンドの視点で分析してみましょう。フェミニズムの母ボーヴォワール、日本近代化の父福沢諭吉、そして東アジア思想の源流孔子が、それぞれの哲学から現代日本の課題に迫ります。
ボーヴォワールの回答：社会的構築による「第二の性」からの脱却
ボーヴォワール「女性が遅れているのではない。社会が女性を遅らせているのよ。」
私が『第二の性』で指摘したように、「人は女に生まれない、女になるのだ」という言葉が、まさに日本の現状を説明しています。日本社会では、女性は生物学的な性別ではなく、社会的に「女性らしさ」という檻に閉じ込められているのです。
私がフランスで体験したように、女性が知識人として生きることの困難さは、能力の問題ではありません。私は哲学者として、作家として、サルトルと対等に議論し、独自の思想を築き上げました。しかし、常に「サルトルの恋人」「女性哲学者」というラベルを貼られ続けました。
日本の女性たちも同様です。優秀な女性が数多くいるにも関わらず、「良妻賢母」「女性らしさ」という社会的期待が、彼女たちの可能性を狭めているのです。企業の管理職が少ないのも、政治家が少ないのも、能力の問題ではなく、社会構造の問題なのよ。
解決の鍵は、女性自身が「第二の性」から脱却することです。男性に依存する存在ではなく、経済的にも精神的にも独立した「自由な女性」になることです。そして社会全体が、性別による役割分担という古い価値観を捨て去ることが必要です。
「女性が真に解放されるのは、社会が女性を一人の人間として扱う時よ。」
福沢諭吉の回答：教育と制度改革による「独立自尊」の実現
福沢諭吉「天は人の上に人を造らずと申します。男女の別なく、である。」
この問題の根源は、明治維新以来の日本の近代化プロセスにあると私は考えます。西洋の技術と制度は取り入れましたが、男女平等という根本的な価値観については十分に消化できませんでした。
私が慶應義塾を創設した時から一貫して主張してきたのは「実学」の重要性です。女性にも男性と同等の教育機会を与え、実社会で役立つ知識と技能を身につけさせるべきなのです。当時から私は「婦人論」で女性の地位向上を説いてきました。
現代日本の問題は、表面的な制度改革にとどまっていることです。確かに法律上は男女平等になりましたが、企業文化、家庭での役割分担、そして何より人々の意識が旧態依然としています。
「独立自尊」という私の理念は、女性にこそ必要なのです。経済的自立、精神的自立、そして社会的発言力を持つことで、初めて真の平等が実現されます。そのためには三つの改革が急務です。
第一に教育改革。幼少期から男女の区別なく、リーダーシップや論理的思考を育てること。第二に企業制度改革。長時間労働文化を改め、成果主義を徹底すること。第三に家庭制度改革。家事・育児の分担を当然のこととする文化を作ること。
「学問に男女の別なし。実力に男女の別なし。未来を担うは、学びし者なり。」
孔子の回答：調和ある社会実現のための「仁義礼智」の再解釈
孔子「仁者は人を愛す。礼によって秩序を保つべし。されど時代に応じて礼も変わるものです。」
私の教えが東アジア社会、とりわけ日本に大きな影響を与えてきたことは事実です。しかし、私の本来の思想が誤解され、男女不平等を正当化する道具として使われてきたことを深く憂慮しております。
『論語』で私が説いた「仁義礼智」は、すべての人間が持つべき徳性です。「仁」とは他者への思いやり、「義」とは正しい行い、「礼」とは社会秩序、「智」とは知恵です。これらに男女の区別はありません。
確かに私の時代には「男女の別」を説きました。しかし、それは当時の社会状況に応じた「礼」であり、永遠不変の真理ではありません。真の儒教思想は、時代と共に「礼」を再解釈し、より調和のとれた社会を目指すものです。
現代の日本社会が目指すべきは、女性も男性も共に「君子」となることです。「君子」とは徳を積み、学問を修め、社会に貢献する人のことです。性別は関係ありません。
私が重視した「教育」こそが鍵です。「学びて時に之を習う、亦説ばしからずや」。女性にも等しく学習の機会を与え、その才能を社会全体のために活用することが、真の「仁政」なのです。
また、家庭の調和も重要です。夫婦が互いを尊重し、役割を分担しながらも、どちらも社会で活躍できる環境を作ることが、現代の「礼」なのです。
「君子に男女の別なし。徳ある者こそが社会を導くべし。」
まとめ
三人のレジェンドが示したように、日本の女性社会進出の遅れは、生物学的要因ではなく社会構造の問題です。ボーヴォワールが指摘した社会的構築の打破、福沢諭吉が説いた教育と制度改革、孔子が示した時代に応じた価値観の再解釈─これらの歴史的知恵を現代に活かすことで、真の男女共同参画社会が実現できるでしょう。偉人たちの叡智は、現代の私たちに行動する勇気と方向性を与えてくれます。